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<ケーナ雑感>

俳優のT.K氏は離婚しちゃいましたが(そんなことはどうでもいいですか!)、 ケーナについての紹介をしたいと思います。ケーナは南米の楽器で、南米がスペインに征服される以前からアンデス山脈に伝わる縦笛です。その奏法は、日本の尺八と非常によく似ています。標準的な長さ(37~38cm)のものをケーナと呼び、それより短いものをケニージャ、長いものをチョケーラとかケナーチョとか呼んでいます。材質は 肉厚の葦(カーニャ)ですが、コンドルの骨で作られたものや、愛する恋人(故人)の骨で出来たものも存在します。私がアルゼンチンにいたときに、コンドルの骨で作られたケーナを吹いたことがあり、吹きにくかったことを 記憶しています。 ケーナ

ところでケーナの長さについて、面白い考察があるので紹介したいと思います。 先程人間の骨で出来たケーナの話を出しましたが、ケーナの標準的な長さ(37~38cm)と同等な人間の骨は大腿骨(Fumar)です。大腿骨の長さは約40cmで、大腿骨頭を除く真っ直ぐな部分は38cm前後が標準です(これは日本人の 大人の平均で、男女差が2cm位あるのですが)。大腿骨をよく観察してみると、大腿骨頭側(股関節に近い方)は凹 凸が多く、歌口を作るのが難しいと思われます。膝蓋骨側(膝に近い方)は平滑であり、歌口の切れ込みを作成す るのに容易ではないかと考えられます。どんな音がするかは吹いたことがないので分かりませんが、骨の材質はヒ ドロキシ・アパタイトなので、乾いた音がするかもしれないし、内径側の平滑度(骨の内面は海綿質で割とざらざ らしている)が粗い場合は、素朴な音がしてくるのであろう。例えば、粘土で作ったオカリナなどを800℃前後で素焼きしたものと、しっかり焼き固めて(1100~1200℃)表面(内外面)を平滑にしたものとでは、音質、音色が違ってくるように。以前来日したグルーポ・アイマラのルシアーノが,そのとき動物(何の骨かは私には分からなかったが)の骨でできたケーナを吹いていましたが、低音は普通のケーナと変わらず、高音の音ののびと音色の柔ら かさが素晴らしかったことを記憶しています。

ここで注目したいのは、大腿骨の有効な長さが38cmであるということです。ひょっとすると、最初に作られたケーナは人間の大腿骨であったのかもしれません。その大腿骨で作られたケーナの長さや径に合わせて、後から葦で楽器を作ったという考え方があってもいいのではないでしょうか。ペルーでは、今だ に鳥葬を行っているという話があり、実際に私の友人は10年程前に鳥葬を行った事があります。
大腿骨はペルーでは十分に手に入るはずです。

とここまで書いてきましたが、実際に私が大腿骨で作られたケーナを見たことも 聞いたこともありません。なにかの雑誌で、その昔ケーナは人間の脛骨(向こう脛)で作られていたという記事を 読んだことがあります。俳優のT.K氏が篠笛の先生から借りている人骨のケーナを写真で見ましたが、掌程のサ イズで小さかった。本当に私が考えるように、大腿骨で作られたケーナが今のケーナの原型と考えてもいいもので しょうか。少し解剖学的に骨の構造から考えてみたいと思います。

人間の骨の長さは、<下肢の骨>大腿骨38cm、脛骨33cm、<上肢の骨> 上腕骨29cm、尺骨24cm、橈骨22cm。下肢と上肢とこれだけが利用できると考えられますが、このうち 尺骨、橈骨は径が小さすぎて、実際に吹いても演奏しづらいと考えられます。大腿骨(38cm)で作る場合は基音が ラ(A)のケーナ、脛骨(33cm)で作る場合が基音がシ(B)、上腕骨(29cm)の場合は基音がド(C)ぐらいでし ょうか。

モセーニョ

ここで、上で選択した大腿骨のような長管骨について、その構造を説明します。長管骨は体肢(手と足の部分です)にあり、長円柱状をなしてその両端は膨大しています。その中央部は骨幹と いい、硬く厚い緻密骨からなり、骨髄をいれる空洞(髄腔)を持っています。また両端は骨端といい、髄腔に続 く小さな髄腔に貫かれた海蹄質(スポンジ状の3次元編目構造である)から成り立ちますが、その表面は中央部 骨幹の緻密骨に続く薄い骨質板からなっています。

そのためこういう長管骨の両端はその厚みが非常に薄く、従って加工する 際に非常に割れやすいのではないかと考えられ、ケーナの歌口を作るのが難しいのではないでしょうか。それ故、 ケーナに使用できる長管骨の長さは実際の長さの3/5程度ではないかと考えます。

大腿骨23cm、脛骨20cm、上腕骨17cm

こんどは骨の強度の点から考えてみましょう。と言っても、誰も人間の長管骨の 強度(引っ張り強度)を測定した人はいないでしょう。別の観点から考えます。骨にかかる荷重より、その長管 骨の強度を定性的に考えたいと思います。上腕骨(腕)には通常殆ど負荷はかかっていません。それに対し下肢 (足)の骨(大腿骨,脛骨)は自分の体重を支えていて、特に脛骨(膝から足関節にかけての骨)は一番硬いの ではないかと考えます。

従って、一番ケーナに向いているものは脛骨で、その長さは20cm程度のも のと考えられます。俳優のT.K氏が所持しているケーナが、掌(手の平)程のサイズの大きさなのは、このよう に考えると納得できるのではないでしょうか。

最後になりますが、南米で作られた人骨のケーナは20cm程の脛骨であると考 えてしいましたが、私は最初に作られたケーナが大腿骨(38cm)の線を捨ててはいません。ペルーで作られる ケーナの中には肉薄のものも見うけられます。たしかに吹きにくくはありますが、人間くさい音色で哀愁を帯びた 音です。このあたりにケーナの原点があるのではないだろうかと考えています。 

前述しましたように、私は人骨で出来たケーナを見たことも触ったこともありません。ここに記載している人骨で出来たケーナの記述はあくまでも私の推論ですが、こんな考え方は大胆すぎるのでしょうか。

1999.8.4 日出男

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