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サンポーニャを演奏するときの心理的作用、運動学的特徴などについて、幅広く考察なども交えて論じてみたい。

<サンポーニャの紹介>

シーク サンポーニャは、南米のアンデス山脈で約4000年前より音楽に使われている楽器である。 ヨーロッパ(ルーマニア)のナーイ(一般的にはパンパイプと呼ばれている)などと同じように、末端が詰まっている筒を長い方から短い方へ並べただけであり、非常に単純な原理で作られている。 サンポーニャの材質は、チチカカ湖の湖畔に生えている肉薄の葦である。

サンポーニャは本来(ミ、ソ、シ、レ、ファ#、ラ)と(レ、ファ#、ラ、ド、ミ、ソ、シ)の2列で出来ており、それぞれ1列を2人で持ち、相手の足りない音を補いながら演奏するのが昔からの奏法であった。 すなわち、一方の人が吹く音にもう片方がその音に導かれていくという意味あいを持ったものであった。

一般に音楽を奏でる楽器は、その楽器だけで音楽を演奏できるものであるが、サンポーニャは、一人では演奏することは出来ず、最低二人は必要である。 従って、演婁の際は相手の音をさも自分が演奏しているように聴きながら、自分の番を待っている時間が必要となってくる。 この時間は、自分が相手によって導かれている貴重な時間であり、意味のある空白の時間と考えることが出来る。 サンポーニャの音はまさに風の音であり、原理が単純であるが上に吹く人によって色々な音色の違いが表れてくる。 そこがまたこの楽器の持つ面白さであり、自分の内に秘めた感情がそのまま音色として表れてくる。

<サンポーニャ演奏の特徴及び機能>

  1. 感覚として必要なもの

    • 前庭感覚:演奏中のバランスをとるため
    • 触 覚  :サンポーニャを持ったときの掌の感覚、口唇の触覚
    • 視 覚  :演奏している他の人、聴いてくれている人の動作、表情を見るため
    • 聴 覚  :演奏している他の楽器の音を聴くため
    • 深部感覚:自分のからだがどういう位置にあるか(位置覚)を知る必要がある。
  2. 運動機能面

    • 微細運動:音の変化に伴う細かい動作や協調性が必要である。
    • 筋力  :立位バランス(坐る場合は座位バランス)と楽器が持てるだけの筋力が必要である。 (筋力としては小さくてよいが、強い音を出すときには楽器を吹くときに腹筋、背筋が必要となる)
    • 関節可動域:サンポーニャが持てるだけの可動域(小さくてよい)
    • 耐久力 :姿勢の維持と呼気の維持
    • 反復運動:サンポーニャの左右への移動、リズムの練習、呼吸
    • 必要な基本姿勢と姿勢変化:本来は立位でサンポーニャを吹くが、座位でも可能である。
  3. 認知機能

    • 注意:相手の音を聴くため、間違わないように吹くため。
    • 記憶:音階を覚えるため、曲のイメージ、感情表象。
    • 音の識別:何の楽器の音か、音程はどうか。
    • 聴、触、連動覚の統合機能が必要となる。
  4. 心理的機能

    • 満足:楽器を演奏することに加えて、相手とタイミングを合わせなければならないので、 一曲間違わずに痍奏できたときには満足感が大きい。
    • 信頼:相手と交互に吹くため、信頼関係が必要である。
    • 集中力:曲を間違わないように吹くために必要である。
    • 緊張感:同上
    • 感情:情感のコントロール
  5. 社会的関係

    • 2者関係:対人関係への働きかけになる。
    • グループ関係:協力しあったり共有しあうことでコミュニケーションがとれる。
      (時間と場所の共有感)
  6. 演奏遂行の作用

    • 遊びとしての機能をもつ。
    • 友情が生まれる。
  7. その他

    • 性別は関係なく吹くことが出来る。
    • 段階づけしやすい。(簡単な曲→難しい曲、小さい音→大きい音、など)
    • 4歳程度の年齢なら吹くことが出来る。
    • 準備が簡単である。
    • 音の迷惑がかからないところであればどこでもできる。
    • 二人で一列ずつ持ち、相手の足りない音を補いながら演奏する。
    • 指の動きはあまり必要なく、肩関節の内、外転の機能が重要である。
    • 障害を持った方でも、環境を整えれば出来ると思う。

例えば私が事故などで脊髄損傷になった場合でも、C5レベルであれば簡単な曲なら吹けると思う。 脊髄損傷でC5レベルというのは、頸周囲筋、三角筋と上肢の肘屈曲は可能であるがそれ以下の筋は働かず(従ってサンポーニャを持つことが出来ない)、 呼吸も横隔膜による腹式呼吸(呼気は横隔膜の弛緩による胸郭の縮小によるもので、筋収縮の必要はない)のみ可能で、肋間筋による胸式呼吸は出来ないし、 腹筋群も働かないので強い呼気は不可能であると考えられる。その場合、環境の整備としては、座位の安定性を確保すること、サンポーニャを頸部の回旋に沿うように弧状にすること、 サンボーニャを固定すること、などが挙げられる。

<呼吸運動の際に働く筋とその作用>

ここで、運動機能面(特に呼吸について:サンポーニャに限らず多くの吹奏楽器にも同じ様なことが当てはまるのではと考える)と心理的機能面について少し詳しく述べてみたい。

・息を吸う時(吸気)・・・体幹の筋

部位名 運動方向 作用 主動作筋 補助動作筋
胸郭 肋間筋の短縮→下位勅骨の挙上

肋間筋の短縮→上位肋骨の挙上
胸郭の横径拡大
胸郭の縦径拡大
○外肋間筋

○内肪間筋
前部繊維
○助骨挙筋
△横隔膜
・脊柱起立筋群
・大胸筋
・小胸筋
●前鋸筋
●僧帽筋
●肩甲挙筋
■上後鋸筋
口胸鎖乳突筋
□斜角筋群
胸腔 横隔膜の短縮→横隔膜の下方移動 胸腔の下方拡大 △横隔膜 ▲腹筋群
胸郭 斜角筋群等の短縮→第1、2肋骨の挙上 胸郭の上方拡大 □胸鎖乳突筋
□斜角筋群
○外肋間筋
○内肋間筋前部繊維

・強い音を出す時(呼気)・・・体幹の筋

部位名 運動方向 作用 主動作筋 補助動作筋
胸郭 助間筋の短縮→肋骨の引き下げ 胸郭の縮小 ○内肋間筋後部繊維
○内肋間筋横部繊維
○外腹斜筋
○内腹斜筋
○胸横筋
○肋下筋
○下後鋸筋
○腹横筋
△腹直筋
胸郭 腹直筋の短縮→胸郭前壁の引き下げ 胸郭の縮小 △腹直筋 ▲錐体筋
肛門 肛門出□と直陽下端の収縮 腹腔内圧の保持 □肛門拳筋
□外肛門括約筋
■尾骨筋

・強い音を出す時(呼気)・・・口裂周囲の筋

部位名 運動方向 作用 主動作筋 補助動作筋
口裂周囲 変化なし 口角を後方へ引っ張り、空気を吹き出す 頬筋 大頬骨筋
口輪筋
口角挙筋
口角下制筋

<心理学的機能の分析>

サンポーニャ

サンポーニャを用いた時に考えられる心理面での作用について、様々な場面で、色々な角度から列挙してみた。

今回サンポーニャの紹介とともに、私なりに考えた様々な特徴を色々な機能面から論じてみました。分かりにくい点が多々あるとは思いますが、こういう見方もあると思ってくださるとありがたいです。

サンポーニャに限らず、楽器の演奏をこういった違った観点からみることも面白いと思いますが、皆様いかがでしたでしょうか。

1999.8.4  日出男

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